婚姻費用で私立高校の学費上乗せを認めた裁判例の解説。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.婚姻費用で私立高校の学費上乗せは?

私立高校の学費上乗せについては、非常によくある争いとなっています。

たとえば、大阪高等裁判所平成28年3月17日決定。

学費の上乗せと、不貞行為による権利濫用が争点となった事例です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.2.15

事案の概要

夫と妻は、平成10年に婚姻。

平成11年に長女を、平成13年に二女を、平成15年に長男をもうけました。

夫は、平成27年、単身で自宅マンションを出て、妻及び子らと別居。

妻も、子らとともに本件マンションから転居。
妻は、平成27年、夫に対し婚姻費用の分担を求める調停を神戸家庭裁判所に申し立てたものの、不成立となり、審判手続に移行という流れです。

Q.婚姻費用分担調停の手続はどのようなものですか?

 

家庭裁判所の判断

家庭裁判所は、夫の分担すべき婚姻費用の額を月額35万円と定め、夫に対し、婚姻費用合計280万円(35万円×8か月)から既払の186万2186円を控除した93万7814円の即時払及び当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで、毎月末日限り35万円の支払を命じる審判をしました。

これに対し、夫が即時抗告。


夫は、妻が不貞行為をしていたと主張。婚姻共同生活の維持・修復のための努力を怠ったものであり、そのような妻が自らの生活費の支払を夫に求めることは権利の濫用であり、許されないと主張しました。

これに対し、妻は、不貞行為を行っておらず、本件婚姻費用分担申立ては権利濫用に当たらないと反論しました。

Q.婚姻費用請求が権利濫用で否定されるケースは?

 

高等裁判所の判断

婚姻費用請求は権利濫用と認定しました。養育費部分のみ認めています。

 

夫婦は、互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負います。

この義務は、夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが、別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地からして、子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当であるとしました。

 

別居原因は不貞行為と認定

裁判所は、時期を分けて認定。

平成25年には、夫は、妻の不貞を知りつつ、妻と再度同居していることなどの諸事情に照らせば、上記不貞関係があったからといって、直ちに妻の本件婚姻費用分担請求が信義に反しあるいは権利濫用に当たると評価することはできないと指摘。


しかしながら、夫と妻が平成25年に再度同居した後、妻は本件男性講師と不貞関係に及んだと推認するのが相当であり、夫と妻が平成27年に別居に至った原因は、主として又は専ら妻にあるといわざるを得ないとしました。

妻は、上記不貞関係を争うが、妻と本件男性講師とのソーシャルネットワークサービス上の通信内容からは、単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされていることが認められるのであって、これによれば不貞行為は十分推認されるから、妻の主張は採用できないとしました。

そうとすれば、妻の夫に対する婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地から、子らの養育費相当分に限って認められるというべきであるとしました。

 


婚姻費用分担額の基礎収入

婚姻費用分担額の算定に当たっては、いわゆる標準的算定方式によるのが相当であると原則を確認。算定表等によるというもの。

また、婚姻費用分担金の支払の始期は、原審判に先立つ調停が申し立てられた平成27年とするのが相当であるとしました。

妻の総収入(給与)は176万5811円。

夫の総収入(給与)は1347万1300円。

当事者の基礎収入は、妻につき総収入に基礎収入割合39%を乗じた68万8000円(1000円未満切捨て)、
夫につき総収入に基礎収入割合35%を乗じた471万4000円(1000円未満切捨て)と認定。

計算

 

婚姻費用の算出計算

妻の夫に対する婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地から、子らの養育費相当分に限って認められるから、上記基礎収入を前提に、生活費指数を成人につき100、15歳以上の子(長女)につき90、15歳未満の子(二女及び長男)につき各55として夫の分担すべき養育費相当額を算定すると、以下のとおり年額274万1000円ととなると算出しています。


子の生活費=夫の基礎収入(471万4000円)×子の生活費指数(90+55+55)÷〔夫の生活費指数(100)+子の生活費指数(90+55+55)〕=314万2000円(1000円未満切捨て)

夫の分担額(年額)=子の生活費(314万2000円)×夫の基礎収入(471万4000円)÷〔夫の基礎収入(471万4000円)+相手方の基礎収入(68万8000円)〕=274万1000円(1000円未満切捨て)

 

私立高校の負担額

長女は、私立高校の音楽科に通学してバイオリンを専攻

その授業料等の納付金として年額81万円。

その学年費として年額14万円。

通学のための交通費として年額8万円程度。

学校教師によるバイオリンのレッスン代及び交通費として年額16万6560円が必要でした。

また、本件男性講師によるバイオリンのレッスンを受けており、その月謝は、毎月少なくとも8000円。

バイオリン

 

私立高校学費を婚姻費用に加算

私立高校学費についての特別加算が認められています。

長女の上記学費のうち、年額33万3844円(公立高校の教育費の平均。判例タイムズ1111号290頁参照)を超える部分については、いわゆる標準的算定方式において、通常の教育費として考慮されていない特別の学費として、夫と妻の収入状況等に照らし、その87%を夫において負担するのが相当であるとしました。

したがって、長女の上記学費の合計である129万2560円から、33万3844円を控除した95万8716円の87%である83万4000円(1000円未満切捨て)を上記夫が分担すべき婚姻費用として算定された274万1000円に加算すると357万5000円となるから、夫が分担すべき婚姻費用月額は、29万7000円となる(1000円未満切捨て)としました。

 

夫、妻、双方の主張を否定

夫は、長女の私立高校への通学費用及び本件男性講師とのレッスン代を特別の学費として婚姻費用分担金の算定において考慮すべきではないと主張。

しかし、長女は、私立高校の音楽科に通学してバイオリンを専攻していること及び財産分与のための本件マンションの売却を機に転居したことに照らせば、転居の事情はやむを得ないものというべきであるし、通学先を変更することも困難であると認められるから、通学費用相当額を特別の学費として算定するのが相当であるとしています。

また、本件男性講師によるレッスンについても、長女の進学先及び夫と相手方との同居中から同レッスンが続けられており、一件記録によっても夫が同レッスンの必要性に異議を唱えていた等の事情も窺えないことからすると、これを特別の学費として算定するのが相当であるとしました。

夫の主張

妻は、二女と長男についても、通学交通費、長男の学習塾費用等が必要であり、特別の学費として婚姻費用分担金の算定において、これらの費用を加算すべきであると主張。

しかし、二女は中学2年生、長男は中学1年生であり、長男は平成27年で学習塾を退塾しているところ、一件記録によっても、これら費用を夫に負担させてまで、二女及び長男を従前の中学校に通学させること及び長男を学習塾に通塾させることが相当であるとみるべき事情は認められないとして排斥しています。

 

婚姻費用では、私立大学の加算を認めた裁判例もあります。

Q.婚姻費用で私立大学の学費分の加算は?

 

私立高校の学費加算を認めた解決事例

 

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