婚姻費用請求が権利濫用で否定されるケースを解説。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.婚姻費用請求が権利濫用で否定されるケースは?

有責配偶者からの婚姻費用請求が権利濫用として排斥されることがあります。

不貞問題の裁判例が多いですが、今回は、妻の暴力が問題になったケースです。

有責配偶者からの婚姻費用請求に納得できない人は、チェックしてみてください。

東京高等裁判所平成31年1月31日決定です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.30

事案の概要

妻が、夫に対し、婚姻費用の分担を請求した事案です。

夫婦の間には長男がいます。

長男は、小学校入学後、問題行動が治まりませんでした。

そのような中、妻は、長男に対し、継続的に暴力を振るうように。

酔った妻が長男に対し、その首を絞めるなどの暴力をふるうことも。

妻は、夫に対しても、もみ合いの中で包丁を持ち出して振り回し、負傷させるなどもありました。

夫が長男と共にその日は外泊。

翌日、長男は児童相談所に一時保護。夫婦は別居開始。

一時保護措置は解除され、長男は夫の下で生活。

家庭裁判所により夫が監護者に指定。

なお、別居後、妻からは離婚訴訟が提起されています。

妻からの婚姻費用請求に対し、夫は、本件暴力行為が別居の原因であると主張。

有責配偶者である妻からの婚姻費用分担請求は信義則違反又は権利濫用と主張して争いました。

 

家庭裁判所は婚姻費用を認める

家庭裁判所は、本件暴力行為についての妻の責任は軽視できないとしつつ、以前から当事者双方の間で円満を欠く状態であったものと推察されるとしました。

本件暴力行為が別居の直接の端緒であるとしても、家庭不和に陥った原因は妻が専ら又は主として有責であるとまでいうことはできないとしました。

夫による信義則違反・権利濫用の主張を排斥。

婚姻費用請求を認めました。

15万6454円を即時に支払い、平成30年10月から当事者の離婚又は別居状態の解消までの間、毎月末日限り、1か月当たり1万6000円を支払うことを命じました。

夫は、これを不服として、抗告。

 

夫の主張

夫は、抗告の理由として、別居開始日である平成29年6月10日に長男の首を絞め、夫を包丁で切りつけたものである上、それ以前から長男に対し、叩いたり、蹴ったりという虐待をしていたのであるから、別居の主な原因を作出した妻の有責性は明らかであり、婚姻費用分担請求は信義則違反又は権利濫用として認められないとしました。

さらに、自分は、別居後も、妻が引き続き居住する住居に係る住宅ローンの返済として毎月24万6675円を支払い、更に自分と長男が暮らす自宅の住居費として毎月18万6000円を支払っているのであるから、当該金額を婚姻費用から差し引くべきだと主張しました。

 

妻の反論

これに対し、妻も反論。

平成29年6月10日における包丁での切りつけについては、最初に暴行を行ったのは夫であると主張。

長男の首を絞めたことについては、記憶ははっきりしていないし、仮にこれをしていたとしても生命の危険のあるようなものではなかったと反論。

それ以前の長男に対する暴力は、長男に子育ての困難をもたらすような特徴的な行動傾向があったことに加え、夫にも、ほとんど長男の監護養育をしなかったという不適切な点があり、夫の主張は、10年に及ぶそれまでの家族関係の経緯を捨象したもので、極めて偏ったものといわざるを得ないと主張。

本件は、以前から別居を企図していた抗告人が同日のトラブルを契機として別居を敢行したものであると展開。

住宅ローンの支払は夫にとって資産形成の側面を有しており、夫が負担している住宅ローン支払額をそのまま住居費とみることは適切ではないというものであると反論しました。

 

高等裁判所は婚姻費用を否定

高等裁判所は、原審判を取り消し、妻による申立てを却下としました。

家庭裁判所とは逆の結論となりました。

 

婚姻費用請求が権利濫用になることがある


家庭裁判所は、婚姻費用分担義務の存否について述べていきます。

夫婦は、互いに協力し扶助しなければならないところ、別居した場合でも、他方に自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負うと確認。

夫婦の婚姻関係が破綻している場合においても、同様であるが、このような生活保持を求めて婚姻費用の分担を請求することが、当事者間の信義に反し、又は権利の濫用として許されない場合があると解されるとしています。

 

別居経緯から暴力が原因と認定


本件において、夫婦が別居に至った経過は、平成29年6月10日に、酔って帰宅した相手方が、長男に対し首を絞め、壁に押し付けて両肩をつかむなどの暴力をふるい、これを注意した夫ともみ合い、つかみ合いとなり、包丁を持ち出して夫に向けて振り回し、夫を負傷させるなどの行為に及び、それを見た長男が玄関から裸足で飛び出したことから、夫が、自分と長男の生命、身体の危険を感じ、長男とともに家を出てホテルに宿泊した後、妻と別居するに至ったというものであると認定。

長男は、同月12日、警察官に対し、これまで妻から暴力をふるわれていたため、妻とは暮らしたくないと述べ、児童相談所に一時保護。

その後、自宅への立入りを巡って夫が妻に対し、立入妨害禁止仮処分命令事件を申し立て、妻は離婚訴訟を提起するなどの状況となったものであると認定。


このような経過に照らすと、夫婦が別居するに至った直接の原因が本件暴力行為であることは明らかであり、夫と妻との間においては、別居の開始以降、婚姻関係を巡る相当に激しい紛争が続いているということができるところ、前記認定事実によれば、婚姻関係は、同居中から円満とはいえない状態であったことがうかがわれるが、別居に至るほどの亀裂が生じていたとは認められず、本件暴力行為が原因となって一挙に溝が深まり、別居の継続に伴って不和が深刻化したと認められるとしました。

 

裁判所は暴力に対して厳しい態度

妻は、本件暴力行為の以前から、長男を叩く、蹴るなどしており、このような度重なる暴力によって長男の心身に大きな傷を負わせていたことがうかがわれるとしています。

その上に、酔余、生命に危険が生じかねない本件暴力行為に及んだものであって、妻のこれらの暴力が長男に与えた心理的影響は相当に深刻であったとみられると指摘。

そして、児童相談所が、長男を妻の監護下に置くことはできないとの判断の下に一時保護の措置をとり、夫は、妻と別居して監護環境を整え、家庭裁判所により長男の監護者に定められ、その監護をすることとなったものであるという経緯を認定。

このような経過を経て、長男は、妻と暮らしたくないとの意思を明確に表しており、夫が妻との別居を継続しているのは、本件暴力行為そのものに加え、このような長男の状況やその身の安全を慮ってのことでもあるということができるとしています。

 

妻が有責配偶者であると認定

以上によれば、別居の直接の原因は本件暴力行為であるが、この本件暴力行為による別居の開始を契機として妻と夫との婚姻関係が一挙に悪化し、別居の継続に伴って不和が深刻化しているとみられるとしました。

そして、本件暴力行為から別居に至る婚姻関係の悪化の経過の根底には、妻の長男に対する暴力とこれによる長男の心身への深刻な影響が存在するのであって、このことに鑑みれば、必ずしも妻が夫に対して直接に婚姻関係を損ねるような行為に及んだものではない面があるが、別居と婚姻関係の深刻な悪化については、妻の責任によるところが極めて大きいというべきであるとしました。

 

婚姻費用のための収入認定

裁判所は、経済的状況を整理しています。

妻は、栄養士及び調理師として稼働。平成29年には330万円余りの年収がある。

夫が住宅ローンの返済をしている住居に別居後も引き続き居住していることによって、夫の負担において住居費を免れており、相応の生活水準の生計を賄うに十分な状態にあるということができると指摘。

他方、夫は、会社を経営し、平成29年には約900万円の収入があって、それ自体は妻の収入よりかなり多いが、妻が居住している住宅に係る住宅ローンとして月額約24万6000円を支払っており、さらに、別居後に住居を賃借し、長男の一時保護措置が解除された後に同住居において長男を養育しているが、その住居の賃料及び共益費(月額合計18万6000円)、私立学校に通学する長男の学費(年額91万9700円)や学習塾の費用(月額約4万円)などを負担していると認定。


双方の経済的状況に照らせば、別居及び婚姻関係の悪化について上記のような極めて大きな責在があると認められる妻が、夫に対し、その生活水準を夫と同程度に保持することを求めて婚姻費用の分担を請求することは、信義に反し、又は権利の濫用として許されないというべきであるとして婚姻費用請求を排斥しました。

 

 

夫婦の生活保持義務からの婚姻費用

夫婦は、自分と同程度の生活を保障する義務があります。

これを生活保持義務と呼びます(民法752条)。

このような生活保持義務から、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して婚姻費用を決めることになります。

このような婚姻費用の金額を決める際、別居に至った原因が請求者にある場合には、婚姻費用分担請求が、信義則違反又は権利濫用に当たり許されないとして否定されることがあります。

子の監護をしている場合には、養育費相当分のみが認められることも多いです。

 

離婚請求時における有責配偶者の認定と同じような話が問題になります。

有責性について、よく問題になるのは、不貞行為。配偶者の不貞が原因で別居になったのに、不貞当事者が婚姻費用請求をする場合に、権利濫用等で否定される例が多いです。

本件は、これを暴力に適用したという事例です。

 

婚姻費用と権利濫用の主張をする場合には、参考にしてみてください。

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