離婚と養育費
離婚と養育費
養育費とは
離婚後、子が社会人として独立して自活ができるまでに必要とされる費用です。養育費の範囲は、親の生活水準と同等の生活水準を子が維持するために必要か否かで判断されます。
養育費には、衣食住のための費用、医療費などの生存に不可欠な費用、教育費などが含まれます。
教育費の中には進学のための予備校の費用や塾の費用、受験料、学校等の授業料、教材費、クラブ活動費などが含まれます。
養育費の金額
離婚調停、審判などの裁判手続では、裁判所が算定表を作成しており、概ね、この基準に従って決められます。
当事者が合意をするのであれば、この金額と違っていても問題ないです。
婚姻費用や養育費は、双方の基礎収入から決められます。
基礎収入・自営業者の場合
基礎収入の認定はどのようにするのでしょうか。
自営業者のような事業者の場合には、確定申告書や課税証明書で認定するのが一般的です。
この場合、売上げではなく、所得が収入になります。
さらに、その所得に加算されるものがあります。
確定申告書の「課税される所得金額」には、基礎控除や扶養控除、青色申告特別控除など、現実に支出されてないものが控除されているので、このような金額を「課税される所得金額」に加算して、数字を戻します。
実際には支払いがされていない場合には、専従者給与も加算します。
寄付金控除や、小規模企業共済等の掛金控除については実際に支出があるため考え方が分かれます。
ただ、これらの支出が、養育費や婚姻費用の支払いに優先するとは考えにくいため、加算すべきという考え方があります。
減価償却費の扱いについても、その年に実際の支出がされたものではないことから、どう扱うか問題になります。
適正な減価償却費であれば各年度の必要経費として控除するのが適当とする文献もあります。
算定表においては、基礎収入は、課税される所得金額から所得税、住民税、特別経費を控除した残額とされています。
給与収入と事業収入の両方の収入がある場合、どちらか一方に換算して合計します。
基礎収入・役員報酬の減額
取締役の報酬については、税金対策などにより、収入が調整されるケースもあるとされています。
裁判例においては、実質的に自らの報酬額を決定できる立場にあったという場合、意図的に婚姻費用を低額に抑えようとして変更したという理由で、減額前の収入を基礎として算定するのが相当としたケースもあります。
基礎収入・退職
婚姻費用の支払い中に、退職をするケースもあります。
退職により収入がなくなったからといって、直ちに婚姻費用の支払義務がなくなるわけではありません。
退職後も、従前の収入と同程度の収入があると認定することもあります。
退職の理由や、再就職活動の具体的内容等を見て判断することになるでしょう。
意図的に収入を減らす行為は厳しく見られます。
基礎収入・児童手当
児童手当や児童扶養手当については、児童の福祉等の政策目的のために支給されるものですので、家族の生活費とは別と考えられます。
そこで、原則として、これを婚姻費用や養育費の分担のための基礎収入とはしないとされています。
基礎収入・親族の援助
実家からの援助についても収入には加算しないとされています。
実家からの援助は、好意に基づく贈与にすぎず、永続するとは限らないからです。
基礎収入・収入がない場合
収入がない人に対する請求の場合には、働こうと思えば働けるのに労働意欲がないなどで働いていない場合には、賃金センサスによって収入があるものと擬制することもあります。
特別支出・私立学校の費用
公立学校の教育費を超えるような私立学校の費用については、義務者がこれを負担することに合理性がなければ負担させられません。
義務者が子供の私立学校の進学を承諾しているような場合には負担する形になる。
また、義務者が承諾していなくても、義務者の収入や学歴、地位などから私立学校に行くのが合理的と考えられる場合には、その費用を負担すべきとされる。
というような考え方が採用されることが多いです。
負担の仕方には、何パターンかあります。
養育費の始期と終期
いつからの分の養育費を払うのかスタートの始期については、多くの裁判例では、調停申立時や請求時を養育費の支払義務の始期としています。
ただし、最近は、過去に遡って養育費の請求を認める考えも出てきています。
いつまで養育費を支払うかというゴールの終期は、一般的には子が20歳に達する月とされます。
親は、未成熟子に対して、扶養義務を負うのが原則であり、未成熟子であるかどうかは、原則として、成人しているかどうかが基準となります。
ただ、未成年者と「未成熟な子」とは違う概念のため、養育費を払う親が、子供の大学進学を認めている場合など、成人した大学生も未成熟な子として扱われ、20歳後も支払義務が続くこともあります。
逆に、高校中退するなどして社会で働いていたりすれば、未成熟子とは言えないという考え方もあります。
父母の学歴などの家庭環境や、資力によって、個別に定めることもあります。
たとえば、
- 「未成年者が満18歳に達する月まで」
- 「未成年者が満22歳に達する月まで」
- 「未成年者が満18歳に達した後の最初の3月まで」(高卒時)
- 「未成年者が満22歳に達した後の最初の3月まで」(大卒時)
といった定め方があります。
終期については、事情変更の原則あるいは停止条件を付与することで、見込み違いによって一方当事者が不利益を受けないように調整をはかることができます。
例えば、子が高校を卒業して働く予定だったが、大学を受験することになった場合、養育費の増額の申立をすることができますが、予め、「養育費の支払いの終期は未成年者が成年に達したときとする。ただし、同人が成年に達するまでに大学に進学した場合には、未成年者が未成年者が満22歳に達した後の最初の3月までとする」などの条件を付加しておくことが考えられます。
逆に、当初、大学卒業を終期としていたところ、高校卒業で就職したような場合には、養育費免除の申立をすることもできます。
離婚時に、子の年齢が低く、養育費の支払が長期にわたっており、将来どのような費用がかかるか、父母のそれぞれの収入がどうなるか分らないというような場合には、状況が変わった時には、双方で再度協議するという再協議の条項を入れておくと良いでしょう。
養育費と調停・審判手続
養育費について、親同士の話し合いで決められない場合、調停手続があります。
調停申し立て後は、第一回期日まで約1~2ヶ月、その後、月に1回程度の調停期日が開かれます。
実務上は、半年から1年程度で結論が出ることが多いです。
調停不成立の場合には、審判に移行します。
ほとんどのケースでは、審判は短期間で終了します。
調停手続きについて。
管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所。
添付書類として、戸籍謄本や収入に関する資料が必要。
必要な費用は、収入印紙1,200円と郵便切手。
郵便切手については、家庭裁判所によって違うので問い合わせをして組み合わせを確認すべきです。
審判手続きについて。
管轄は、夫又は妻の住所地を管轄する家庭裁判所。
添付資料としては、戸籍謄本や収入に関する資料。
収入印紙1,200円、郵便切手は裁判所によって異なります。
養育費・婚姻費用と審判前保全処分
権利者が、審判または調停を申し立てた場合には、その審判事件または調停事件が継続する家庭裁判所に対して、仮差押、仮処分その他必要な保全処分をさせることができます。
そこで、養育費や婚姻費用の仮払い仮処分を申し立てることもあります。
離婚と同時に養育費を決めるよう求めているケースでは、離婚までは婚姻費用の支払を求めることがほとんどですので、仮処分は婚姻費用として使われることの方が多いです。
養育費を請求しないという合意
配偶者とのあいだで、養育費は請求しないという合意をした場合それは有効になるのか問題にされることもあります。
扶養料は一身専属権と呼ばれ、その処分が禁止されています。
そのため、どのような合意をしても、扶養料の請求はできるとされています。
養育費の合意時の条項
合意をする場合、養育費については、差し押さえをする際に、一般債権よりも、差し押さえができる金額が給料の2分の1に相当する部分までなどと有利な定めがされています。
そのため、公正証書を作るような場合には、支払うものが、養育費であるということを明記しておくべきです。
慰謝料・解決金の分割払いという名目より、養育費名目の方が請求側には、有利となります。
離婚した相手が、再婚や再婚相手と子供との間に養子縁組をする可能性があるときには、調停条項に、「第三者と養子縁組をした場合や再婚した場合には速やかに知らせることを約束する」という内容の条項を入れることで、適切なタイミングで動けるようになります。
養育費の一括支払
当事者が合意するならば養育費を一括で支払うことも可能です。
合意がないのに、強制するのは難しいです。
合意ができず、審判に移行した場合には、一括支払いは認められない可能性の方が高いです。
養育費の未払・履行勧告
家庭裁判所で解決したのに、養育費の支払がされなくなってしまった場合の方法です。
権利者が申し立てをすることによって、審判や調停をした家庭裁判所がその履行状況を調査して、義務者に対して履行勧告することができます。
履行勧告の申し出は、口頭でも可能と言われているし、手数料は不要。
家庭裁判所は、調査及び勧告に必要な調査を適当と認める者に嘱託したり、銀行や信託会社に対し、関係人の預金・信託財産その他の事項に関して必要な報告を求めることもできます(強制力はなし)。
養育費の未払・履行命令
履行命令の申し立てについては、申立書を家庭裁判所に提出、収入印紙500円のほか郵便切手を収めます。
履行勧告とは異なり、履行命令に従わない場合には、過料の制裁があります。
履行命令の場合には、義務者の陳述を聴かなければなりません。
養育費と自己破産
義務者が自己破産をした場合でも、養育費や婚姻費用の支払い義務はなくなりません。
破産法において、非免責債権と明記されています。
調停条項や和解条項では、養育費や婚姻費用であることを明記しておかないと、一般債権と同じく免責されてしまう危険があるので注意が必要です。
養育費の金額変更
養育費の増減額請求が認められたケースの紹介です。
認められたケースとして
- 養子縁組や再婚
- 義務者の収入が著しく減少
- 義務者が再婚して、子がうまれた
- 義務者が再婚し、再婚相手の子と養子縁組をした。
- 義務者が婚外子について認知
などがあります。
収入の減少を理由にする減額について、多少の収入が減るくらいでは、婚姻費用や養育費の減額ができるほどの事情変更とは認められないことが多いです。
金額では、分担額が2割程度変動するのであれば事情変更はあるとするような文献もあります。
養育費と養子縁組
子が第三者と養子縁組した場合の話です。
養子縁組がされても、実の親が親でなくなるわけではありません。そのため、実の親の扶養義務がなくなるわけではありません。しかし、養親の扶養義務は実の親の扶養義務に優先するとする考え方が多数です。
そのため、先に養親が負担することになります。
この場合でも、養育費の減額(ゼロにする)調停等の合意はしておいた方が無難です。
養育費と不当合意
合意した金額が当初から当初から不当だった場合の話です。
離婚の合意を得るために多額の養育費の支払いを約束するような場合で、合意後に支払えないのでと言う理由で減額を求めるようなことが許されるか争われることもあります。
合意の前提となった事情に変更はないので原則としては難しいと考えられます。ただ、あまりにも公平に反する場合には変更もあり得るでしょう。
養育費と消滅時効
養育費の消滅時効について、養育費は定期給付債権であるために、5年の短期消滅時効にかかると考えられています。
過去の養育費の請求が認められるケースであっても、5年経過分について、消滅時効の主張がされ、権利を失うこともあります。
養育費と弁護士費用
ジン法律事務所弁護士法人では、債権総額の10分の7の額を基準に経済的利益を算定します。
例えば、14歳の子供の場合には、6年分の養育費を算出して、そのうち10分の7を経済的利益として報酬を決めます。