調停前の婚姻費用の合意について承諾を否定した裁判例。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.婚姻費用の合意と調停の関係は?

婚姻費用を一度決めた合意があった後、調停や審判で決められるかという問題があります。

このような調停がされた場合、婚姻費用の「合意」があったと評価できるか争われることも多いです。

今回の判例は、東京高等裁判所令和5年6月21日決定です。

この判例をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・婚姻費用の合意をしたのに調停を申し立てられた
  • ・婚姻費用の調停を申し立てたい

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.6.19

婚姻費用合意の事案

この事案は、妻A(平成4年生まれ)が夫B(昭和63年生まれ)に対して婚姻費用の分担を求めたもの。

Aは子供D(令和3年生まれ)を連れて別居。

夫が主張する月額5万円の婚姻費用の合意の成立が争点になりました。

別居後、夫婦間で以下のメッセージのやり取りがありました。

夫:「生活費を渡してないので振り込みます。金額は、こちらも生活する上で食材等を購入する必要があるので5万円とさせてください。振込先を教えてください。今後のことですが、離婚に関しても話を進めていきませんか?」

妻:「5万円で承諾しました。ありがとうございます。私は2人分の養育費並びに慰謝料、今後私が働けるようになるまでの最低限の生活費、Dの今までの児童手当を頂けるのであれば再構築は望みません。金額については専門家と相談させて頂きます。」

その後、妻が本件婚姻費用分担調停を申し立て。審判に。

 

家庭裁判所の判断

家庭裁判所は、本件やり取りにおいて、妻が夫の月額5万円の支払提案に対し、何ら留保を付けずに「5万円で承諾しました。ありがとうございます。」と応じていることを重視し、本件合意が成立していると認定

そのため、夫に婚姻費用として月額5万円の支払を命じました。

妻の「私は2人分の養育費並びに慰謝料、今後私が働けるようになるまでの最低限の生活費、Dの今までの児童手当を頂けるのであればもう再構築は望みません。金額については私も分からないので、専門家と相談させて頂きます。」とのメッセージについては、妻が専門家と相談した上で決めようとしていた金額は、この言辞の文理や、これが夫の「今後の事ですが、離婚に関しても話を進めていきませんか?」との提案に応じたものであることに照らし、離婚時又は離婚後にされるべき金銭給付に関するものであったと認めるのが相当であって、婚姻費用に関するものであったと解することはできないとしています。したがって、本件合意は、婚姻費用の額を暫定的に定めたものではなく、確定的に定めたものであったと評価すべきとしています。

そうだとすると、婚姻費用の合意があった後、変更の申立と取り扱えないかも争点となりました。

しかし、家庭裁判所は、当事者間において婚姻費用の額に関する合意が成立した後、この額を変更すべき客観的な事情変更が生じたとは認められないとして、こちらも排斥しました。

 

高等裁判所の判断

これに対し、高等裁判所は次のように判断し、婚姻費用を11万円としました。

東京高等裁判所令和5年6月21日決定です。

 

別居から本件やり取りの日の前日まで、夫婦間で婚姻費用について具体的な協議がされたとは到底いえないと指摘。

「承諾しました。」との返信はされているものの、それとともに、2人分の養育費、慰謝料、今後抗告人が働けるようになるまでの最低限の生活費、本件未成年者の今までの児童手当をもらえるのであればもう再構築は望まないこと、金額については専門家と相談することもメッセージにあるところ、専門家ではない抗告人や相手方が別居中の婚姻費用と離婚に伴う養育費等の給付を区別できていたかも疑問があると指摘。

妻が本件やり取りの翌々月に本件婚姻費用分担調停を申し立てている点にも言及。

婚姻費用の分担額について確定的な合意があったと認めるのは相当ではなく、後に両者の収入等を踏まえて具体的な協議や審判手続等を経て婚姻費用の分担額が定められるまで、とりあえず暫定的に支払われる額について提案と承諾がされたにとどまるものと認めるのが相当である。としました。

その結果、婚姻費用は1か月当たり11万円を支払うよう命じました。


婚姻費用の金額計算

改訂標準算定方式で算出しています。

妻には、令和3年において収入はなく、その後収入を得ていることを裏付ける証拠はないから、抗告人に収入はないものと認めるのが相当。

夫の令和3年の給与収入は約370万円であり、同年9月時点において、令和4年の給与収入として少なくとも約500万円を見込むことができたことに照らすと、令和4年の給与収入は500万円と認めるのが相当。

 

算定表による試算

抗告人の基礎収入 0円
相手方の基礎収入 500万円×0.42=210万円

抗告人世帯に割り当てられるべき生活費
210万円×(100+62)÷(100+100+62)
≒130万円(月額約11万円)

 

既払い金について

相手方は、令和4年6月から同年10月までの間、同年8月を除き、月額5万円を4か月分合計20万円支払った。
そうすると、令和4年6月から令和5年5月までの未払の婚姻費用分担金は、11万円×12か月分-20万円=112万円となるとして、未払の婚姻費用の支払も命じています。

 

婚姻費用の交渉合意

婚姻費用の分担額に関する裁判所外での合意は、一般的な原則どおり、申込みと承諾による意思表示が合致することで成立するとされます。

契約は、申込みと承諾という相対立する意思表示が合致することで成立しますが、その成立方法には色々あります。明確な合意書、契約書があればよいですが、それ以外でも合意が成立する場面は色々とあります。

契約の成否を判断する際には、以下の要素が考慮されます。

・事前の情況:契約成立までの交渉の経緯、契約締結に向けた準備・計画の有無、当事者間の関係など。
・行為の情況:契約内容の合理性、話し合いの状況など。
・事後の情況:契約後の当事者の言動や行動など。

本決定は、事前の情況、行為の情況、事後の情況に分けて間接事実を詳細に分析して判断しました。


簡単に承諾しない

最終的には高等裁判所で修正されていますが、当事者間のメッセージの「承諾」という言葉で家庭裁判所は婚姻費用の合意と判断しています。

結局、高等裁判所でも前後のやりとりなどの総合的な判断で合意ではないと認定しているものですので、金額の相場感を確認せずに、承諾という言葉を使うのはリスクがあると考えるべきでしょう。

 

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