FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.婚姻費用で役員報酬の減額がある場合は?
婚姻費用審判で、役員報酬の減額があった場合に、減額後の報酬を基準に算定した裁判例があります。
調停申し立て後の減額のため、妻側は収入調整ではないかと争ったものの、額面通りの判断がされています。
法人の決算資料などを証拠提出したことで減額が認められています。
東京家庭裁判所令和3年1月29日審判です。
この判例をチェックすると良い人は、次のような人。
- ・婚姻費用で争っている
- ・法人役員報酬の変動がある場合の婚姻費用を知りたい
婚姻費用事案の概要
妻が申立人、夫が相手方。
婚姻費用の分担請求です。
申立人は中華人民共和国国籍。相手方は日本国籍。
平成28年に婚姻し、平成30年に長女をもうけました。
令和元年11月に別居。
申立人が長女を監護。
相手方には前婚の子がいます。この子の親権者は前妻。
父親である相手方とは同居していませんが、養育費として、令和2年5月まで月額15万円、6月からは月額7万5000円を支払っています。
夫婦の収入と婚姻費用
申立人は、仕事をしておらず無収入。
相手方は、法人の代表取締役。
法人の売上高は平成29年3月期から令和2年3月期まで増加。
しかし、令和2年4月以降、新型コロナウイルス感染症の影響もあり減少。
相手方は役員報酬として令和元年6月から月額198万円を受け取っていたものの、法人の取締役会では令和2年5月27日、相手方の役員報酬を月額120万円に減額する決議がされています。
なお、申立人が、婚姻費用分担調停を申し立てたのは、令和2年1月29日。
時系列では、調停申立後に、役員報酬減額となっています。
相手方は、婚姻費用の一部を支払い、申立人が居住するマンションの住宅ローン、管理費、修繕穣立金、ルーフバルコニー使用料、光熱費、携帯電話使用料等を負担。さらに、申立人が使ったクレジットカードの利用代金を支払っていました。
役員報酬の減額と婚姻費用
相手方は会社代表者でした。調停中に役員報酬が減額されている点が特徴的です。
特に手続中に収入減少があった場合に、婚姻費用減額のための意図的な調整ではないかと主張されます。
理由がない退職や自営業者の縮小のほか、役員報酬の減額でも問題になります。
本件では、会社の売上が減少している点や、過去数年の売上を確認し、同程度の売上があった時期の役員報酬との比較をして、収入調整ではないので、額面に従って婚姻費用を決めるべきとしています。
法人の決算資料など相当の証拠を提出せずに、額面の役員報酬が下がっただけだと主張した場合には、額面どおりの収入での算定は厳しかったといえるでしょう。
本件でも、調停申立後の減額であることや、新型コロナウイルスを理由とする売上減少であることから、影響は一時的とも考えられ、別の判断がされてもおかしくなった事例といえます。
役員報酬として、
平成29年に1200万円(月額100万円)、
平成30年に1655万円(平成30年1月から5月まで月額100万円、同年6月以降165万円)、
令和元年に2211万円(令和元年1月から同年5月まで月額165万円、同年6月以降198万円)
を受領。
法人の売上高。
平成29年3月期が約6億円、
平成30年3月期が約7億円、
平成31年3月期が約9億円、
令和2年3月期が約10億円。
国際裁判管轄
本件においては扶養義務者である相手方及び扶養権利者である申立人のいずれの住所も日本にあることから、日本の裁判所に国際裁判管鞘が認められるとしています(家事事件手続法3条の10)。
次に、準拠法について、本件における扶養権利者である申立人の常居所地法である日本法が準拠法となる(扶養義務の準拠法に関する法律2条1項)と確認しています。
これにより、申立人が中国籍であることは、結論に影響しないといえるでしょう。
婚姻費用分担の始期
当事者の公平を考慮すれば、申立人が本件に係る調停を申し立てた令和2年1月から、婚姻費用分担義務を形成するのが相当であるとしています。
多くの裁判所が採用する考え方です。
婚姻費用の算定の方法
婚姻費用額については、義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して、義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし、これを、生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して権利者世帯に割り振られる婚姻費用から、権利者の前記基礎収入を控除して、義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式に基づいて検討するのが相当としています。
いわゆる標準算定方式です。算定表の元になっている計算方法です。
標準算定方式では、双方の収入を認定していく必要があります。
申立人に収入はないのでゼロとしています。
問題は、収入変動があった相手方の収入です。
家庭裁判所は、相手方の収入については、令和2年5月までは年額2376万円(月額198万円×12月)、同年6月以
降は年額1440万円(月額120万円×12月)として算定すべきとしました。
額面どおりの金額で計算すべきという判断です。
子の生活費指数と教育費
本件では、相手方が子の生活費指数まで争っています。
算定表の元となる標準算定方式では、14歳までの子の生活費指数を62としています。
これを突き詰めていくと、14歳までの基準生活費の平均額を基に算出した指数が51。
これに、公立中学校における学校教育費を基に算出した指数11が加算されています。
このような内訳であるとすると、理論的には、2歳で、公立中学校における学校教育費相当額がかかっていないので、11を減らし、子の生活費指数を51とすべきという主張もできそうです。
しかし、裁判所は、これを否定。
未就学児でも教育費が必要なことはあるほか、幼稚園や保育園の入園等に伴う費用も必要となり、その都度、婚姻費用を算出しなおすのは大変です。
生まれたばかりの子に対し、教育費はかからないのが通常、また、保育園・幼稚園時期の教育費は小学校時代よりも高額であることも多いです。現実費用を考慮しすぎると、キリがないです。
ある程度のバラツキがあることを前提として、15歳でのみ生活費指数を変えていることからすれば、実際の教育費負担を理由に、指数を減らす主張は通りにくいでしょう。
標準算定方式による婚姻費用月額
相手方の年収は、2376万円とすべきところ、給与所得者の基礎収入の割合は給与収入1475万円を超え2000万円までの者について38%。
そして、相手方の収入は、2000万円を大幅に超えるものではないから、同程度の基礎収入割合とみるのが相当としています。
そうすると、相手方の基礎収入額は、902万8800円。
2376万円×38%=902万8800円
また、相手方は、長男の養育費として月額15万円を支払っているところ、これについては基礎収入から控除するのが相当。そうすると、相手方の基礎収入額は、722万8800円となります。
902万8800円-15万円×12月=722万8800円
標準算定方式において、親の生活費指数を100としたときの15歳未満の子の生活費指数は62とされていることから、それをもとに計算すると、月額37万2476円。
役員報酬減額後の婚姻費用計算
令和2年6月から相手方の年収は、1440万円とすべきところ、給与所得者の基礎収入の割合は給与収入1325万円を
超え1475万円までの者について39%。
そうすると、相手方の基礎収入額は561万6000円。
1440万円×39%=561万6000円
また、相手方は、長男の養育費として月額7万5000円を支払っているところ、これについては基礎収入から控除するのが相当。そうすると、相手方の基礎収入額は、471万6000円となる。
561万6000円-7万5000円×12月=471万6000円
そして、この相手方の基礎収入を基に、申立人に対して支払われるべき婚姻費用を標準算定方式に基づき計算すると、月額24万3000円に。
住宅ローン、管理費等による修正
相手方は、本件マンションの住宅ローン、管理費、修繕積立金、ルーフバルコニー使用料及びインターネット使用料の支払も行っています。
裁判所は、これらのうち、住宅ローンの支払については、資産形成の部分があることからその全額を婚姻費用から控除するのは適当ではないが、申立人において本来負担すべき住居関係費の支払を免れていることから、申立人の収入区分について標準算定方式考慮されている住居関係費2万2247円を月額の婚姻費用額から控除するのが相当としました。
また、本件マンションの管理費月額1万2800円、ルーフバルコニー使用料月額910円及びインターネット使用料月額990円については、居住者において負担すべきものであるから、これらの合計月額1万4700円は、月額の婚姻費用額から控除するのが相当としています。
他方、修繕積立金は、資産形成の一環としてされているものであるから、婚姻費用月額から控除するのは相当ではないとしています。
マンションの住宅ローン負担がある場合には、その内訳によって内容が異なると考えておいたほうが良いでしょう。
申立人は、そもそも権利者が無収入か収入が非常に少ない場合、権利者には、基礎収入算定において留保される住居関係費が全くないか非常に少ないのであり、権利者が新たに住居を確保するには、その費用を生活費部分から捻出せざる
を得ず、義務者との間で不公平となるため、公平の観点から婚姻費用分担額から住居費を控除するべきではないところ、申立人は無収入であることから、婚姻費用分担額から住居費を控除するべきではないと主張。
しかし、裁判所は、権利者が無収入であったとしても、およそ住居関係費を要しないで生活することは考え難いことに照らせば、申立人の収入区分について必要とされている住居関係費を月額の婚姻費用額から控除するのが公平の観点から適当であるとして、申立人の主張は採用できないとしました。
相手方は、義務者である相手方の標準的住居費である9万1554円を控除するべきであると主張。
しかし、裁判所は、権利者が義務者が住宅ローンの支払をしている住宅に居住している事例においては、以前から居住していた住宅に権利者が残されていることが多く、自ら居住場所を選択しているわけではないと指摘。そのような事情の下で、高額の収入を得ている義務者の標準的な住居費を控除することは、権利者に実際に支払われる婚姻費用額を過度に低額にすることになるものであって、採用することはできないとしました。
住居費控除の考え方について、詳しく書かれており、同種事案では参考になる指摘です。
婚姻費用月額の計算
長女が現在学習教育費を必要としていないなどの本件に現れた事情を考慮すれば、相手方が分担すべき婚姻費用は、令和2年1月から同年5月までは月額33万円と、同年6月以降は月額20万円とすべきだとしました。
算定額から端数を切り捨てた感じですね。
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