FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.財産分与で開示拒絶するデメリットは?
財産分与で相手に財産資料の開示をしたくない、と拒絶する人もいます。
この場合、裁判所で、実際の金額よりも高い金額を分与するよう命じられるデメリットもあります。
大阪高等裁判所令和3年1月13日決定では、この点が問題になっています。
この判例をチェックすると良い人は、次のような人。
- ・財産分与の紛争中
- ・財産分与で財産資料の提出がされていない
事案の概要
離婚した夫婦の元妻が、元夫に対し、相当額の財産分与を求めた事件です。
夫は、家庭裁判所において、財産を開示しませんでした。
調査嘱託にも不同意。そのため、一部の金融機関は、調査嘱託に応じず、預金残高や、財形住宅貯蓄等が不明でした。
身分関係等
平成22年に婚姻。
夫婦間には、長女(平成22年生)及び二女(平成23年生)が生まれました。
さらに、妻が先夫との間に設けた長男(平成10年生)について、夫は、婚姻と同日、養子縁組をしています。
夫婦は、平成29年に離婚。3人の子の親権者は妻と定めて協議離婚、夫と長男は離縁の届出をしました。
妻は、平成29年、財産分与の調停を申し立てましたが、令和2年、不成立となり、審判手続に移行。
自宅の財産分与と頭金
自宅はアンダーローンでした。不動産の評価額より、住宅ローンの方が少なく、余剰がある評価です。
この場合、評価額からローン金額を引いた金額を財産分与として分けることになります。
ところが、頭金を入れたとの主張が双方からされました。
お互いに、金額を出したような資料はあるものの、明確なお金の動きはないという状態。
夫は、妻の100万円は頭金に充てられたのではなく、家電製品などの購入に充てたなどと主張。
家庭裁判所は、仮に直接頭金に宛てたのではなく、他の用途に宛てたとしても、その分相手方の特有財産又は夫婦共有財産からの出損が免れたことになるから、結局、購入時の頭金その他の一時的な出費は、夫婦がそれぞれ応分に負担したと推認でき、夫婦共有持分を各2分の1と椎認する前提を覆すほどの事情は見出せないとしました。
一定の頭金を入れた事情がありそうでも、2分の1ルールを適用するとしています。
預貯金を推定額で認定
預貯金について、調査嘱託を実施したものの、夫の同意がないとして調査嘱託に応じなかった口座がありました。
妻は、本件口座の平成22年5月13日から同25年8月27日までの通帳のコピーをとっていたところ、これによれば、
本件口座には、夫の給与が振り込まれ、他方で、水道光熱費や、クレジットカード利用代金、生命保険料などが本件口座から引き落とされており、一見明らかに家計の中核的な役割を果たす口座であること、最大残高が270万円を超え、上記コピーから判明する平成25年8月27日の残高でも166万0815円あったことを認定しています。
妻側では、相手方が、口座の取引履歴の開示に応じず、かつ調査嘱託についても同意せず、金融機関による回答が得られなかったため、取引履歴が判明する上記期間における相手方の給与額や児童手当(子供手当)の法定額などから、取引履歴が不明な期間における本件口座への入金額を推定、継続的、固定的経費の額などから出金額を推計し、口座残高を少なくとも440万円あると主張しました。
家庭裁判所は、申立人代理人の上記推計には相応の合理性があり、これに対して、相手方は.本件口座の取引履歴を
開示するだけのことで.上記推計の当否を容易に明らかにすることができるのに、これをしなかったのであるから、財産分与の基準時における本件口座の残高は、少なくとも440万円あったと優に推認できると判断しました。
財形貯蓄も推定額で認定
同様に、財形住宅貯蓄についても、調査嘱託に対して相手方が同意しないという理由で回答を拒絶するという態度に出ていること等の事実が認められることから、申立人の主張する残高があると優に推認できると認定しています。
家庭裁判所の判断に対し、夫が即時抗告。
高等裁判所も推定で財産分与
高等裁判所では、夫は、共同生活が解消された時期の本件口座の通帳1頁分の写しを提出しました。
その際の残高は168万円程度でした。夫は、家裁の440万円という推定は間違っている、実際はもっと少なかったと主張したものです。
しかし、高等裁判所は、夫の主張を認めず、抗告棄却という結論でした。
財産隠しは認めない
高等裁判所は、家事事件の当事者は、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行すべき義務があると指摘。
夫による本件手続の追行は、財産隠しと評されてもやむを得ないものであって、明らかに信義に反し不誠実なものというほかはないと指摘しています。
本件口座の基準時の残高が440万円程度である旨の推計には相応の合理性があるとも言及。
夫は、本件手続において判明していない口座を有しており、440万円から168万円余りを差し引いた金額を同口座
に保管しているものと認めるのが相当としました。
他の財産についても、夫は残高証明書を提出するだけで、依然として取引履歴を明らかにしていないと指摘し、家庭裁判所の判断が正しいとしています。
財産分与の対象になる財産
財産分与の対象になる財産は、「当事者双方がその協力によって得た財産」とされます。
期間的にいつの財産を対象にするのかというタイミングの問題があります。
多くの場合には、夫婦が協力関係を解消した時点として、別居時基準が採用されます。
この時期の共有財産から双方の特有財産を控除した金額を確定、分与割合を決めるという流れです。
財産を開示しない場合
調停・審判などでも、自分の財産を開示しない人は多いです。
開示されなければ、対象財産としていくらと認定するのか問題になってきます。
当事者が財産開示を拒絶する場合には、裁判所から、相当な働きかけがされます。
頑なに拒否し続ける場合には、心証は悪くなるでしょう。
多くの事件では、最終的には財産開示がされていますが、本件のように、調査嘱託でも拒否という事案もあります。
銀行等の金融機関への調査嘱託では、金融機関によって対応が変わります。
名義人の同意が必要という金融機関もあります。
同意がないと回答を拒絶する結果になります。
このような場合には、情報がないため、推定で認定してもらうしかなくなります。
離婚裁判などでは、文書提出命令の申立、拒絶された場合の不利益認定を利用することもあります。
本件では、高裁で、別居時の残高を具体的に立証したにも関わらず、家庭裁判所の推定額がそのまま認定されています。
財産隠しのような動きに対するペナルティを与えようとしたようにも見えます。
このようなペナルティを受けるリスクもありますし、財産情報を開示しないという態度は、紛争を無意味に長引かせることにもなるので、あまり勧められません。
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