婚姻費用で私立学費の負担方法について裁判例解説。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.婚姻費用で私立学費の負担額は?

婚姻費用や養育費で、子が私立学校に通っている場合、算定表の金額よりも私立学費を加算するかどうか問題になります。

さらに、加算が認められたとして、その割り振りをどうするかが問題になります。不足分を、父母でどのように負担するのかが問題になるのです。

不足分を折半するか、収入に応じて按分にするかの考え方があります。

今回の裁判例は、家裁・高裁とも按分を採用しています。収入、負担額が近い人は参考にしてみてください。

東京高等裁判所令和2年10月2日決定です。

 

この判例をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・婚姻費用で私立学費が争われている
  • ・私立学費の負担が按分か折半か争われている

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.5.9

事案の概要

別居中の夫婦の婚姻費用で、私立高等学校の学費加算が問題になった事件です。

公立学校教育費を超過している部分を夫婦間でどう負担するか、その負担割合が争われました。

超過分を二等分とするか、夫婦それぞれの基礎収入の額に応じて按分するかが争われた事件です。

また、別居後、婚姻費用調停申立時までの婚姻費用について、妻が請求し夫が一部を支払っていたという事情がありました。調停申立前の期間については、妻が不足していた分をすぐに請求していたものでなかったことから、この期間の清算は婚姻費用審判ではなく財産分与のところで対応すべきと判断しています。

 

 

婚姻費用審判までの流れ

夫と妻には、長男(平成12年生)、長女(平成14年生)がいました。

平成25年1月から別居。

妻は、平成31年4月、婚姻費用の支払を求める旨の調停を申し立て。

調停不成立で審判手続に移行。

 

妻の請求方法

妻は、審判手続において、主位的には平成30年4月以降の婚姻費用分担金の支払を求めました。

さらに、申立前の平成30年4月から平成31年3月までの期間について、婚姻費用が認められない場合には、予備的に、この期間中に支出した学費等について、民法877条の規定に基づき、扶養料の支払を求める審判の申立てを追加しました。

 

婚姻費用請求金額

平成30年4月から平成31年3月まで50万5250円

いわゆる標準算定方式により考慮された教育費は25万9342円。

平成31年4月から妻と夫が離婚又は別居を解消する日の属する月まで月額22万0048円の請求。

さらに、長男及び長女の学費として平成31年4月から令和2年3月まで月額9万4159円。

長女の学費として令和2年4月から令和3年3月まで月額3万1522円。

 

婚姻費用の元になる収入

妻の収入は、年間約130万円見込み。

夫の年収は、約970万円と認定。

 

長男は平成31年4月から大学受験のため浪人(夫も了承)。

妻が、予備校及び大学受験料等を支払っていました。

長女は私立高校生。

妻が学費を支払っていました。

夫は平成31年4月以降、妻に対し毎月16万円を支払っていました。

 

妻が約130万円、夫が約970万円での婚姻費用について、標準算定表に当てはめると、月額22万円~24万円程度と試算されました。

算定表では、公立高校の学校教育費相当額分が考慮されているにとどまります。

 

家庭裁判所は収入按分を採用

算定表で想定されている公立の学費を上回る部分をどう負担させるかは、複数の考え方があります。

家庭裁判所は、子らの学費等のうち上記の教育費相当額を超える部分について、妻と夫の基礎収入に応じて按分するのが相当であるとしています。

今回の夫婦の場合、標準算定方式における公立学校教育費として、世帯年収761万7556円に対する25万9342円が考慮されているから、本件の当事者においては、その世帯収入約1087万円(妻につき約130万円、夫につき約957万円とした上での合計額)に照らし、約37万円(=25万9342円÷761万7556円×1087万円)が公立学校教育費として考慮されているといえると指摘。

長男の学費等のうち75万円と長女の学費等のうち40万円を妻と夫の基礎収入に応じて按分して負担すべきとしました。

 

私立学費按分の場合の婚姻費用計算方法

按分の場合の計算方法です。

夫の基礎収入は382万8000円(=957万円×0.4)

妻の基礎収入は57万2000円(=130万円×0.44)

夫は、超過部分のうち87%(=382万8000円÷ (382万8000円+57万2000円))を負担すべきとされました。

長男につき月額5万4000円(=75万円×0.87÷12)

長女につき月額2万9000円(=40万円×0.87÷12)

という計算です。

長男及び長女の学費等を加算すべき期間は月額30万円、長女の学費等のみを加算すべき期間は月額25万円の婚姻費用とされました。

 

調停申立前の請求は否定

なお、家庭裁判所は、調停申立前の平成30年4月から平成31年3月までの婚姻費用の分担について、妻と夫は、夫が単身赴任をすることを契機に別居し、生活費等の請求・支払のやり取りは単身赴任中の生活費等の負担に関するやり取りでその都度解決していたことがうかがえるから、これをもって妻の婚姻費用の請求の意思が確定的に表明されていたとは認められないとして、否定しています。

 

審判へ即時抗告で不服申立て

妻と夫は、2人とも即時抗告

夫は標準算定方式における標準的な生活指数で考慮されている教育費相当額を超える部分の負担については、双方の基礎収入に応じて按分すべきではなく、 当事者間で二等分すべきである旨を主張。

高等裁判所は、夫の年収が約970万円.基礎収入が約388万円であり、妻の年収が約130万円、基礎収入が約57万2000円にとどまることを前提とすると、超過分の学費に関しては基礎収入割合とすることが不相当であるとはい
えないとしました。

夫の主張を否定。

 

 

過去の婚姻費用の否定

家庭裁判所の判断に対し、妻も即時抗告を申し立てていました。

妻は平成30年1月22日には婚姻費用分担金の増額を請求していたから、平成30年4月以降の婚姻費用又は扶養義務者間での扶養料の請求についても認められるべきであるとの主張です。

高等裁判所は、妻による請求の事実は認定しました。

しかし、夫はその一部を支払い、妻は不足分の請求を直ちにしていることを認めるに足りる証拠がないことを考慮すれば、不足分の清算については、婚姻費用分担審判や扶養料の審判ではなく離婚に伴う財産分与の判断に委ねるのが相当として、妻の主張を否定しました。

婚姻費用請求をしている事件のなかでは、離婚を求めていない事件も多いので、このような判断だと、精算はいつになるのかわからないことになりますね。

 

算定表で考慮されている公立教育費

また、妻は、公立学校教育費は、世帯収入と同様の増加率で増加しないことを理由に、本件当事者において、約37万円が学校教育費として考慮されているとはいえないと主張していました。

しかしながら、高等裁判所は、標準算定方式においては公立学校教育費を考慮した上で子の指数が定められており、婚姻費用は基礎収入に子の指数を乗じた値を基に算定されるため、子の指数が一定であれば世帯収入の増加によって、子に与えられる学校教育費の金額は公立学校であるか私立学校であるかを問わず増加することになると指摘。

したがって、標準算定方式において考慮済みの学校教育費の金額は、基礎収入の額に応じて変動することになるので、この点に関する相手方の主張は採用できないとして否定しています。

 

 

私立学費と婚姻費用

子が私立学校に通っている場合、その学費負担が婚姻費用や養育費算定の事件で問題になります。

婚姻費用事件で使われる算定表では、公立学校分の教育費のみ想定されています。

私立の場合、これよりも高い学費が必要になります。

この負担方法について、既に考慮されている公立の学校教育費相当分を、実際に負担している私立学費の金額から控除して差額を出します。

この差額を、婚姻費用でどうするかが問題になるのです。

家庭裁判所は、基礎収入で按分した額を出し、算定表の婚姻費用に加算しました。

これに対し、超過額について、等分とするのが公平との見解もあります。この見解を採用している裁判例もあります。

本件では、それぞれの年収や超過金額からして、按分負担ではなく二等分とすることが相当と認めるのは難しいとされたものです。

 

婚姻費用はいつから負担

婚姻費用のスタートはいつからなのか、始期の問題があります。

一般的には請求時からとされており、調停申立が基準とされることが多いです。これに先立ち、内容証明郵便などで請求している場合には、その時期が採用されることもあります。

本件では、別居後のやり取りからして、不足分の清算は、財産分与でするよう判断しています。

夫側で一部負担をしていたことなどから、婚姻費用や扶養料の精算として判断するのが望ましくないとしたものです。

 


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