
FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.離婚成立時に、過去の婚姻費用審判はどうなる?
別居してから離婚調停をしている場合、婚姻費用調停も同時に進めることが多いです。
その場合に、離婚調停は成立したのに、婚姻費用調停が成立せず、過去の婚姻費用をどうするか問題になることがあります。
今回は、過去の婚姻費用請求が残るのか問題になった最高裁判所令和2年1月23日決定を取り上げます。
この判例をチェックすると良い人は、次のような人。
- ・婚姻費用調停中に、離婚を成立させる
- ・過去の婚姻費用の請求がどうなるのか知りたい
事案の概要
妻が申立人。夫との間に2人の子がいました。
平成26年頃から別居状態。子は妻と同居。
夫は、平成30年1月までは、婚姻費用として月15万円を支払っていました。
しかし、2月以降は支払を停止。
そこで、妻が未払婚姻費用の支払いを求めて婚姻費用分担調停を申し立てたという流れです。
調停は不成立となり、審判手続に移行。この日に、夫婦は、調停により離婚。
離婚調停では、財産分与に関する合意はなし。「お互いに請求しない」という清算条項もありませんでした。
裁判所の判断
家庭裁判所は、過去の未払い婚姻費用として約74万円の支払いを命じました。
高等裁判所は、婚姻費用は消滅したと認定して、これを覆しました。
最高裁判所は、高等裁判所の決定を破棄、差し戻しました。
婚姻費用は消滅するとの考え方
高等裁判所だけが婚姻費用は消滅したと判断したのはなぜでしょうか。
そのような考え方もあるのです。
家庭裁判所の審判によって具体的に婚姻費用分担請求権の内容及び方法等が形成されないうちに夫婦が離婚したときは、婚姻の存続を前提とする婚姻費用分担請求権は消滅するという考えです。
この考えで行くと、調停離婚の成立によって婚姻費用分担請求権は消滅するので、過去の婚姻費用の分担を求める申立は不適法として許されないことになるのです。
たしかに、婚姻費用の性質自体は、婚姻が存続することを前提にはしています。しかし、過去の婚姻費用についてはどうでしょうか。
この点から、最高裁は違う判断をしています。
最高裁判所は過去の婚姻費用は消滅しないと判断
民法760条に基づく婚姻費用分担請求権は、夫婦の協議のほか、家事事件手続法別表第2の2の項所定の婚姻費用の分担に関する処分についての家庭裁判所の審判により、その具体的な分担額が形成決定されるものであると指摘。
また、同条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しており、婚姻費用の分担は、当事者が婚姻関係にあることを前提とするものであるから、婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合には、離婚時以後の分の費用につきその分担を同条により求める余地がないことは明らかであるとしています。
しかし、上記の場合に、婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず、家庭裁判所は、過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当であるとしています。
このことは、当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても、異なるものではないとしました。
したがって、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえないと結論づけています。
婚姻費用申立後に離婚成立しても過去分の請求は残る
婚姻費用について決めた民法760条は、夫婦は婚姻から生ずる費用を分担すると書かれているだけです。
その要件として、婚姻関係という身分関係が存在することまでは必要とされていません。
そのため、離婚が成立したからといって過去の婚姻費用が消滅するとまでは考えにくいです。
もちろん、離婚時の財産分与の際に、過去の未払い婚姻費用を含めて清算することはできます。
しかし、婚姻費用清算の方法は財産分与に限られません。
特に、今回の事件では、離婚時に財産分与についての合意がされていませんでした。
そのため、離婚が成立しても、過去の婚姻費用は消滅しないものとされたのです。
離婚後に婚姻費用申立ができるかは別問題かも
ただ、この最高裁決定は、婚姻費用分担審判を申立てた後に、当事者が離婚したという場合の話です。
離婚が成立した後に、離婚時までの過去分の婚姻費用分担審判を申立てることについては、別判断がされる可能性は残っているといえるでしょう。
婚姻費用については、過去の婚姻費用も含めて請求できるというのが最高裁の考え方です。
ただし、いつからの婚姻費用を請求できるか、始期については確定した考え方はありません。多くの事例では、請求時や調停申立時という判断がされています。
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