FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.祖母が監護権者指定の申立をできる?
実母と祖母が監護権を争い祖母が監護権者と認められた裁判例もあったのですが、最終的には、最高裁によって否定されました。
祖母も監護権者になれるとしたのが大阪高等裁判所令和2年1月16日決定。
ここからの最高裁令和3年3月29日決定で、祖父母は監護権者の指定申立はできないとされました。
裁判例も学説も分かれている問題でしたが、最高裁の採った結論は否定。
親と祖父母との間で、子の監護権について争いになった際、祖父母からの監護権者指定申立という選択肢は失われたこととなります。
事案の概要
祖母が未成年者の監護権を主張し、申立をした事件です。
祖母は、昭和28年生れ。
未成年者の実母は、昭和54年生れ。
未成年者が平成21年生れ。
実母が実家に戻り、実母と祖母が協力して子育てをしていたところ、実母が男性と交際。
その男性と未成年者の子の関係がうまくいかず、監護権をめぐって紛争になった事件です。
祖母による監護状態
実母は婚姻していましたが、平成21年12月20日頃、未成年者とともに実家である祖母宅に戻り、平成22年2月、未成年者の親権者を実母と定めて離婚。
実母は、平成22年頃、心理カウンセラーをしていた男性と知り合って交際するようになりました。
未成年者の監護養育は、実母と祖母がほぼ同程度の割合で分担。
ただ、未成年者が小学校に入学した平成28年4月頃以降、実母は、未成年者の監護養育のかなりの部分を祖母に委ねるようになり、平成29年には、少なくとも未成年者の監護養育の7割程度を祖母に委ねる状態に。
実母の男性関係から子が体調悪化
実母は、平成29年4月頃、祖母に対し、今後は未成年者及び男性と一緒に生活していくと伝えました。
しかし、祖母は、結婚に反対。実母との関係が悪くなっていきます。
実母は、同年7月末頃から、未成年者を祖母宅から借りたマンションに連れ帰り、未成年者及び男性と滞在することもありました。
実母は、未成年者に男性と3人で入浴させたり、男性からストレッチを受けさせました。
未成年者は、これまで親族以外の成人男性と接することに慣れていなかったことから、入浴させられたことやストレッチを受けて身体が触れたため、同人に嫌悪感を抱くようになりました。
このような嫌悪感等から、未成年者は、同年秋頃には、頭痛や嘔気などの症状を訴え、小学校を欠席することも増えていきます。
小学校に通えなくなる
未成年者は、平成30年1月21日、実母らとバドミントンをしました。
そこでは、実母が男性を優先して、未成年者と遊んでくれなかったと感じ、同月25日頃、実母からディズニーランドに誘われたが、男性が一緒に行くのであれば行かない旨をラインで伝えました。
祖母は、同月28日、テレビ電話により実母に対し、同月21日のバドミントンについて、未成年者が実母に騙されたと言っていると咎めたことから、実母は、怒り出し、祖母に対し、未成年者を引き取ると伝え、祖母の側にいた未成年者に対し、自分たちと暮らすよう説得を始めた。
そこで、祖母がテレビ電話を切ろうとしたところ、実母は、大声で怒鳴り散らしたため、未成年者は、実母に恐怖心を抱いて精神状態が不安定となり、小学校に通えなくなりました。
親権者による引渡請求と医師の診断
実母は、同年2月5日、男性を伴って祖母と面談。未成年者に会わせてほしいと求めるとともに、未成年者の監護の委託を解消すると伝え、同人の引渡しを求めたが、祖母は、未成年者が精神的に不安定になっているとして引渡しを拒否。
未成年者は、同月9日、医師の診察を受け、平成29年秋から頭痛、嘔気、気分不良等の症状があり、小学校を休みがちになっているが、これは、実母らとの関係に対する不安や恐怖が著しく強く、実母との関係が深まるにつれて上記症状が悪化し、心身症を発症していると診断されました。
親権者による転出届、養子縁組
実母は、同月23日、小学校に転出届を提出。未成年者及び祖母には伝えていませんでした。
さらに、実母と男性は、同年3月3日に婚姻。同日、男性と未成年者は、実母を代諾者として養子縁組。
養子縁組についても、未成年者及び祖母に伝えませんでした。
実母は、同年3月1日付けで、自分たちと未成年者の住民票上の住所を異動させ、小学校から転出(転校)手続を取りました。しかし、未成年者は、同人肩書住所地に居住していたことから、どちらの小学校にも通学できない状態に。
親権者からの人身保護請求
実母は、同月12日、大阪地方裁判所に対し、未成年者に係る人身保護請求を申し立て。
祖母と実母は、同年4月3日の第1回準備調査期日において、未成年者が新学期から以前の小学校に就学することができるようにするため、未成年者の住民票を従前の住所に異動させることに合意し、未成年者は、同月9日の始業式からもとの小学校に通学することができるようになりました。
未成年者は、同年5月8日、人身保護請求事件の同人の国選代理人に対し、「実母と一緒に住むのは絶対に嫌、怖い。」と伝え、実母に会いたくない理由については、「一緒に暮らしたくないと言うと、実母は『怒鳴ったりするから』『怖い』」と言って泣き出し、さらに、実母は常に男性と同じ話をするので嫌であり、未成年者が段ボール箱を破って開けようとすると、男性から「段ボール箱には命がある」という話を延々とされて、理解できず泣きそうになったことなどを説明。
未成年者と実母は、同年5月14日、大阪地方裁判所において、人身保護事件の受命裁判官2名、未成年者の国選代理人及び実母の代理人が同席した上で面会交流を実施。
その際、未成年者は、実母に対し、同人が男性と別れた上で、実母及び祖母の3人で生活したいと伝えました。
これに対して、実母は、未成年者に対し、辛い思いをさせたことを詫びるとともに、未成年者と二人で過ごす時間を大事に考えていることを伝えたが、未成年者の求める男性との関係解消については何も言わなかったため、未成年者は、実母に対する信頼を失いました。
なお、未成年者は、実母との面会交流に応じる条件として、祖母及び同人の長男(実母の弟)の立会いが約束されたと思っていたが、裁判所が長男の立会いを認めなかったことや、請求者の男性代理人は同席しないとの約束であったのに、同席したことに対し、裁判所に約束を破られたと感じました。
大阪地方裁判所は、同年6月8日、人身保護請求を棄却する判決を言渡し。
実母は、これに対して、上告を提起し、上告受理申立てをしたが、上告は棄却され、上告受理申立ては不受理決定がされ、同年8月23日、上記棄却判決は確定。
家裁調査官による子への調査
未成年者は、同年6月5日、家庭裁判所調査官からの質問に対して、
①小学校生活は楽しいし、学校での心配事はないが、実母が学校に来て、連れて行かれたら嫌である、
②実母は、変な人と勝手に結婚したり、訳分からないことを言うようになったと答えたほか、更に「ねえ、聞いて」と言って、実母から声をかけられて同人及び男性と3人一緒に風呂に入ったことと、同人に勧められて、男性からストレッチをしてもらい、胸周辺を触られたことが嫌だったと説明。
未成年者は、小学校1年時には英語検定の3級を取得し、実母に同伴してステージで歌を披露するなどし、いわゆる精神年齢は高く、現時点では、健康面や学業面に問題は見られませんでした。
祖母は、健康上の問題はなく、有限会社の代表取締役であり、経済上の問題はなし。自宅は、10LDK。
監護権者の指定調停
祖母は、平成30年2月22日、実母に対し、未成年者の監護者を祖母に指定することを求める調停を申し立て。不成立となって審判手続に移行。
また、祖母は、平成31年3月20日、男性に対し、未成年者の監護者を申立人に指定することを求める審判を申し立て。
両事件は併合されました。
家庭裁判所の判断
家庭裁判所は、祖母を監護権者に指定という結論。
まず、そもそも、このような申立ができるのかが争われました。
実母らは、監護者の指定は「子の監護に関する処分」の審判事項であるが、子の監護処分の根拠条文である民法766条は、離婚に際する子の監護処分を決めるものであって、同条の趣旨から、未成年者の祖母には本件の申立権が認められないから、本件申立ては不適法であるなどと主張。
しかし、前記認定事実によれば、祖母は、未成年者の生後10日後頃から現在まで、監護養育全般を実母と同程度に分担して、同人が仕事で多忙な間は同人以上に担ってきた実績があり、その監護養育に問題があったとはうかがわれないこと、実母も祖母に未成年者の監護養育を委ねていたこと、家庭裁判所において、第三者であっても監護受託者等については子の監護者に指定し得るとされていることに照らすと、民法766条1項所定の子の監護に関する事項に準じて家事審判事項(家事事件手続法別表第2の3項)となると解するのが相当であるとしました。
祖母を監護権者に指定すべきか
家庭裁判所は、祖母の現状の未成年者の監護に問題はうかがわれず、未成年者は、平成29年秋頃から心身の不調が見られたが、現時点においては、一応の落ち着きも見られると指摘。
他方、未成年者は、成人男性との接点があまりなかったにもかかわらず、実母から言われるままに男性と3人で入浴したり、同人からマッサージを受けたことに嫌悪感を抱き、さらに同人の言動に不審を感じていた上に、実母が男性に追従していることに対して男性だけではなく、実母にも嫌悪感を持ち、
平成30年6月時点では、調査官に対し、実母に連れて行かれることを心配し、実母には、男性と別れて戻ってほしいと述べていること、実母は、未成年者が男性との家族関係を構築することを急ぐ余りに、入浴やマッサージの件にしても、未成年者に事前に伝えることもなく小学校の転校や男性との養子縁組をした件にしても、未成年者の心情に対する配慮を全く欠く行動を繰り返しており、このような行動が未成年者を心身の不調に陥らせたと言わざるをえないこと、
未成年者は、現在、実母及び男性を拒否し、祖母と二人で生活することを望んでいること、未成年者の年齢(本審判時9歳)など、本件に現れた一切の事情を考慮すると、実母らは親権者ではあるが、未成年者の福祉のためには、祖母を監護者として指定し、その安定した監護養育を継続させることが相当であると結論づけました。
家庭裁判所の判断に対し、実母らが抗告。
高等裁判所の判断
抗告をいずれも棄却。
家庭裁判所の結論を支持するというものでした。
基本的には、家庭裁判所が認定した理由のとおりでした。
実母らは、未成年者が情緒不安定に陥っているのは、祖母による不適切な関わりに原因があり、祖母を未成年者の監護者と定めるべきではない旨主張していました。
しかし、祖母による未成年者の監護状況に特段の問題はうかがわれず、未成年者が情緒不安定になった原因は、実母ら側にあるのであって、祖母にあるとはいえないとしています。
また、実母らは、祖母が、未成年者に対する不当な働きかけをして、未成年者の情緒不安定を作出し、心理的に虐待している旨主張しましたが、これを認めるに足りる資料はないとして排斥。
さらに調査官による調査を実施することが必要であるとは認められないとして、家裁の結論を支持するものでした。
実母らが許可抗告の申立をして、最高裁へ。
最高裁判所は祖母の監護権者指定申立はできない
原決定を破棄し原々審判を取り消し。
相手方の本件申立てを却下。
という結論でした。祖母の申立を却下するというものです。
「民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、上記の申立てについて、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。なお、子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照)、このことは、上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない。
以上によれば、民法766条の適用又は類推適用により、上記第三者が上記の申立てをすることができると解することはできず、他にそのように解すべき法令上の根拠も存しない。」
条文がないから、ダメです。
とのことです。入り口部分で否定されてしまいました。
家庭裁判所の調査などは一体何だったのか。
事案を見ると、子(孫)の将来が心配になる内容です。
現実では、祖父母に育てられている子も多くいます。親の親権停止、喪失などまでいかないようなケースで、紛争になったときには、監護権者の指定申立という選択肢が失われたことになり、祖父母だけではなく、子にとっても厳しい判断であると感じます。
父母でないとダメだとすると、養子縁組までしますかね・・・。
入り口部分では切らずに、実態を調査できるようにしておいた方が良かったと思います。残念です。
監護権者の指定に関するご相談は、以下のボタンよりお申し込みください。