FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.幼児教育・保育の無償化で婚姻費用は減額される?
婚姻費用の紛争で、夫側から、「令和元年10月から幼児教育・保育の無償化なんだから、私立幼稚園費用の加算をすべきではない」と主張したものの、排斥された事例があります。
東京高等裁判所令和元年11月12日決定です。
動画での解説はこちら。
事案の概要
妻と夫との間には長女及び二女の2人の子がいました。
夫婦は、二女の出産前に別居状態。
長女は、別居当初夫と生活していたものの、その後、妻と生活。
別居後に生まれた二女は、出生以来妻の実家で生活。
これにより、妻は2人の子どもとともに実家で生活している状態。
妻が、夫に対し、婚姻費用分担金の支払を求めた事件です。
妻は無収入。夫は医師。
調停は不成立となり、審判へ。
婚姻費用とは?
夫婦は、互いに協力し扶助しなければならないとされています(民法752条)。
別居した場合でも、自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負うものとされます。
婚姻費用の分担額は、義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して、義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課ならびに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし、これを、生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して権利者世帯に割り振られる婚姻費用から、権利者の上記基礎収入を控除して、義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定するとの方式に基づいて検討する(以下「標準算定方式」という。)のが相当とされます。
これをもとに作成されたのが算定表。
不貞相手の子を認知?
本件では、夫が不貞相手の子を認知していたようです。
この点について、妻は、夫において認知をした子がいることを考慮するのは、信義則に反すると主張しましたが、婚姻費用の分担は、その権利者と義務者の収入から、これを分担するものであり、子の人数や年齢を考慮するところ、仮に不貞行為があったとしても、現実に扶養義務を負うべき子が存在する以上、これを考慮しないことはなく、信義則違反とはいえないとして、主張は排斥されています。
私立幼稚園等により加算?
妻は、長女の幼稚園やお稽古事の費用について、加算対象であると主張しました。
長女は、私立幼稚園(月額2万9360円)に通っているのに加え、以前に生活していた際に通っていた学研(月額6480円)、バレエ(2500円)のほか、通っていたバイオリンに相当するピアノ(月額5000円)に通っているところ、これらは以前に通っていたものと同等のものであり、夫の収入状況からすると、加算を認めるのが相当であると主張しました。
家庭裁判所は、標準算定方式において、14歳までの子の指数は、年額13万4217円の学習関係費を含むものであるから、これを超える分を負担することになり、本件においては、月額3万2155円が超過分と考えられること、妻子は、妻の実家で生活していること等の事情も併せ考えると、超過額の約2分の1である1万6000円を加算するのが相当としました。
夫は、これを不服として抗告。
高等裁判所の判断
夫は、私立幼稚園費加算について、幼児教育の無償化により妥当ではないと主張。
この点について、高等裁判所は次の通り否定しました。
夫は、原審判が婚姻費用に加算した月額1万6000円の長女の教育費について、令和元年10月から幼児教育・保育の無償化が開始し、幼稚園についても月額2万5700円までは無償化されるから、教育費の加算に当たっては、同額を控除すべきである旨主張するが、幼児教育の無償化は、子の監護者の経済的負担を軽減すること等により子の健全成長の実現を目的とするものであり(子ども・子育て支援法1条参照)、このような公的支援は、私的な扶助を補助する性質を有するにすぎないから、上記制度の開始を理由として令和元年10月からの婚姻費用分担額を減額すべきであるとする主張は採用できないとの内容です。
金額的には若干変更がありましたが、内容は家庭裁判所を支持するものとなりました。
幼児教育の無償化と婚姻費用
子ども・子育て支援法が改正されています。
これにより、令和元年10月1日から、幼稚園保育所等を利用する3~5歳までの利用料が無償化されることとなりました。
本件で問題になった私立幼稚園の無償化に関する月額上限額は2万5700円。期間は満3歳からの3年間。
なお、2歳以下の子どもについては、原則として対象外ですが、子どもの数や所得額、保育の必要性等によって、無償化の対象になることもあります。
高校授業料と婚姻費用
婚姻費用の関係では、似たような話として高等学校授業料不徴収制度、就学支援金制度があります。
幼児教育よりも先立って制度化されたもので、公立高等学校に係る授業料の不徴収制度です。
こちらは、平成22年4月1日から施行されました。
公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律で一律不徴収とされたものです(なお、高校授業料不徴収制度は、平成26年4月に廃止。所得制限及び支給限度額のある高等学校等就学支援金制度となっています)。
この点についても、県立高校在学中の子の授業料が不要とされたことで、婚姻費用分担額でも考慮されるべきだと主張した裁判例がありますが、この主張は否定されています。
その理由として、この制度は、私的扶助を補助する性質のものだという点も挙げられています。
本件でも、同じように、制度の趣旨から減額要因とはならないと判断しています。
婚姻費用の負担について、幼保無償化を理由に、婚姻費用の加算をすべきではない、減額すべきなどと主張された際には、この裁判例の存在を主張してみると良いでしょう。
教育費負担を渋られた場合には、教育費自体を節約していくしかなくなりますね。
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