FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.収入減でも婚姻費用が減額できない場合は?
収入が減っても、婚姻費用や養育費が減額できないケースもあります。
その基準を探るヒントになる東京高裁平成30年11月16日決定を紹介します。
動画での解説はこちら。
事案の概要
婚姻費用というのは、結婚している夫婦間で発生する生活費の支払いです。
収入が高いほうが低い側に払っていく制度です。
コンピと呼ばれたりもします。
今回の事案ですが、妻が子供たちを連れて別居。
妻は収入がない専業主婦。
婚姻費用が発生します。
ただ、ここで夫婦間で子どもの連れ去り問題が発生。
夫が、子供を連れ去ってしまって、未成年者誘拐罪で刑事事件化、逮捕までされてしまうという事態に。
そこで婚姻費用も含めた支払い合意をして、夫婦間で示談のような形で刑事告訴を取り下げたという内容です。
告訴取り下げの条件として、月20万円の婚姻費用の支払い合意が交わされていいます。
しかし、数カ月後には、この逮捕勾留などが職場で問題になり、収入が減ってしまったという理由で、婚姻費用減額の請求がされたという経緯です。
家庭裁判所の判断
家庭裁判所では、婚姻費用を月額16万円に減額しました。
身柄拘束されてしまったことによって収入が減るだろう、懲戒処分などで収入が減る可能性もあるだろうとは予測できたかもしれないが、金額がどれくらい下がるかは予見できなかったとして、減額を認めました。
これに対して妻が不服申立て。
夫も即時抗告で不服申し立て。
双方が不服申し立てをしたという内容です。
東京高等裁判所の判断
婚姻費用の減額は認めず、合意どおりの月額20万円の支払いを命じました。
原審相手方が原審申立人に対して支払うべき婚姻費用の額について、原審申立人と原審相手方は.本件合意書において月額20万円とする旨合意していたものであるが、その際、原審申立人と原審相手方は.それぞれの収入を基礎として、標準算定方式などの基準を用いて相当な婚姻費用を算定しその額を決め定めたものではなく、未成年者略取及び未成年者略取未遂被疑事件で逮捕勾留された原審相手方は、原審申立人の提示した金額のままに婚姻費用を月額20万円として合意していたものであると、合意の経緯を認定。
そして、原審相手方は.本件合意書の作成後、勤務する会社の職種が管理職から総合職へ変更された結果、給与の額が減少したため婚姻費用の額に関する上記合意を変更すべき事情が生じたと主張するが、原審相手方は、本件事件を起こしたことによって逮捕勾留されたのであるから、突然かつ相当期間の欠勤により勤務先の業務に支障や混乱を生じさせたり、管理職としての適格性に疑問を生じさせたりしたことは想像に難くなく原審相手方において、何らかの不利益な措置を受けることは当然に予期し得たということができ、職種の変更による減収も予想し得たというべきであるとしています。
合意の特殊性
裁判所の決定では、原審相手方は、かかる状態にある中で、原審申立人の提示した条件のうち、慰謝料の額を除く部分を全て受け入れて本件合意をし、原審申立人に告訴を取り下げてもらったものと認められるとしています。
原審申立人と原審相手方は、双方の収入を前提として婚姻費用の額を定めたものではなく、原審相手方は、原審申立人に告訴を取り下げてもらうことを第一の目的として原審申立人が提示した金額どおりに婚姻費用の額を合意したものであり、また、その際、原審相手方は、本件事件を起こしたことにより、減収を伴う不利益な措置を受ける可能性を認識し得たものと認められるとしています。
収入減の金額
さらに、収入減の金額についても、すさまじい減額ではないとして、想定できる幅だったと認定しています。
このことに加え、降格処分前の平成29年5月の給与支給総額は57万4430円であるのに対し、処分後の平成30年1月ないし同年3月の給与支給総額はいずれも月額50万1670円であり、その減額幅は12%余りにとどまることからすると、原審相手方が、本件合意の当時、予想し得た勤務先からの不利益の措置としての減収の予想の範囲内を超えるほどのものではなかったといえ、 この点でも、上記合意を変更するほどの事情が生じたものということはできないとしました。
このような理由で、減額を否定しています。
潜在的稼働力
ちなみに、夫が即時抗告したのは、原審申立人には262万円の年収を得る潜在的稼働能力があるという点でした。
これにより、適正な婚姻我用は月額12万円であると、原審よりも低いという主張でした。
相手方が小さい子を養育している場合には、なかなか通らない主張です。
今回も、この主張は認められていません。
婚姻費用の変更
一般的に、婚姻費用は、合意した場合であっても、その後に、家族人数や収入の変化、教育費の増加等の事情の変更があれば、増減を求めることはできます。
このような場合、合意した婚姻費用を変更しなければならないほど、事情の変更があるかどうかが問われます。
また、養育費の裁判例で多いのですが、当初の合意額が算定表より上乗せされているケースがあります。
たとえば、実際には慰謝料として多めに養育費を支払うので、算定表よりも高い金額で合意しているようなケースです。
このようなケースで、減額を求める場合、減額が認められるとしても、算定表よりも、高額になることが多いです。
当初、相場よりも高い合意をしたということで、その意思が反映されるものです。
本件でも、示談のような形で合意されたという当初の高額合意の趣旨を考慮しているといえます。
婚姻費用の減額紛争がある方は、参考にしてみると良いでしょう。
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