FAQ(よくある質問)
よくある質問
Q.財産分与の無償居住を変更させられる?
離婚時に、家に居住していても良いという合意をすることがあります。
扶養的財産分与として設定されることがある条項ですが、これが変更できるかというと、かなり厳しいです。
今回、この点が争われた東京高等裁判所平成30年8月31日決定を紹介します。
事案の概要
申立人と相手方は、長男 (当時小学校4年生)の親権者を相手方として離婚。
公正証書を作成。養育費も合意。
申立人が所有する建物がありましたが、これについて以下の合意が成立。
・申立人は、相手方に対し、本件住居につき養育費支払期間が終了するまで(未成年者が満22歳に達する日以降に到来する最初の3月31日ま)、引き続き居住することを認める。
・申立人は、本件住居を取得した際に金融機関から借り受けた借受金の返済並びに管理費及び駐車場費用の支払を誠意をもって行う。
よくある合意ですが、妻側が子とともに家に住み続けたい、夫がこれを認め住宅ローンを負担するという内容です。
申立人は、その後に再婚。
別に住宅ローンを負担したり、子ができました。
相手方に対して養育費減額を求める審判を申し立てるも、取り下げ。
申立人は、相手方に対し、本件住居を明け渡すことを求める、離婚後の紛争調整調停申し立て。
不成立により審判に移行。
当事者の主張
申立人の主張。
公正証書による相手方に対する本件住居の使用貸借は、扶養的財産分与の性質によるもの。
離婚後8年が経過していること、相手方の生活安定と申立人の生活の窮状を衡量すると、扶養義務は消滅している、本
件住居の使用貸借は目的を達成し終了。
相手方の主張。
公正証書の規定は、扶養的財産分与ではない。仮に申立人の主張が事情変更に基づく変更求めるものであるとしても、信義則に照らし、変更の必要性及び相当性は認められない。
無償で住んで良いというのは、法的には、使用貸借となります。
原審の判断
申立人と相手方との離婚当時、双方の財産は、全体として、清算的財産分与として一方が他方に分与するべき財産の状況にはなかった。
本件公正証書の規定は、扶養的財産分与の性質。
本件公正証書の定めにより申立人が養育費、住宅ローン及び管理費等として負担してきた金額は、相当に重いものであったといえ、申立人が再婚して子らの出生が続き、子らが成長するにつれ、その負担はいっそう増していったもので、申立人の収入は、相手方との離婚の当時より増加しているが、それ以上に負担は増加しており、養育費の支払及び管理費等の支払を遅滞するに至っていて、このような正常でない状況において、申立人に養育費支払終了時までのさらに4年間の負担を強いるのは相手方の経済状況と比べ著しく均衡を失するに至っているといわざるを得ない。
扶養的財産分与にかかる本件公正証書の定めは、現状においては、これを維持することが著しく衡平に反するといえ、変更されるべきであるとしました。
これにより、約11か月後に明け渡すよう決定を出しました。
双方が不服申立て。
高等裁判所の決定内容
相手方の抗告に基づき原審判を取り消し、申立人の財産分与の申立てを却下、申立人の抗告を棄却。
本件公正証書第2条が、当事者間の財産分与についての規定であることは当事者間に争いがないとしています。
本件公正証書第2条の規定は、財産分与として、申立人と相手方との間で、本件住居を申立人の所有とし、申立人が相手方に対し養育費支払期間終了時を期限として使用借権を設定したものと解されると。
そして、当事者間に本件住居の使用貸借契約が成立した以上、本件住居については既に分与されているというほかなく、その後の法律関係は、使用貸借契約における貸主と借主の問題となるとしました。
したがって、申立人が相手方に対し本件住居の明渡しを求める旨の本件申立ては、使用貸借の終了に基づく本件住居の明渡請求であり、民事訴訟において審理、判断されるべき事項であるとしました。
このような理由で、却下という結論です。
離婚後の扶養義務?
申立人は、本件公正証書第2条は扶養的財産分与の性質を帯びるもので、現状においてはもはや申立人の扶養義務は消滅していると主張するが、もとより離婚した元配偶者に対する法的な扶養義務はなく、本件における申立人は、相手方と
の間で、離婚に伴う給付として本件公正証書どおりの合意をしたために、その合意に基づいた義務を負っているにすぎないとしました。
また、財産分与の性質が扶養的なものであったとしても、必ずしも事情変更による取消し、変更が認められるものではなく、扶養的財産分与が定期金として合意された場合は民法880条を類推してこれを認める余地もあるが、一時金や分割金として合意された場合にこれを認めることは著しく法的安定性を欠くと考えられ、許されないといわざるを得ないとしています。
そうすると、財産分与の結果、当事者間に使用貸借契約が成立したのであるから、本件住居の占有は同契約に基づくものであり、本件公正証書第2条について民法880条の類推による取消し、変更を認めることはできないとしました
したがって、本件公正証書第2条を変更して相手方に対し本件住居の明渡しを求める本件申立ては、財産分与に関する処分ではないから家庭裁判所による審判をすることができないとしました。
扶養の問題ではないし、もう終わっている財産分与の問題を事情変更で取り消すことはできないという考えです。
1回分与したら終わりである財産分与を変更すると、法的安定性が損なわれてしまうという判断です。
なお、高裁では、仮に変更の審判ができるとしても、現時点において第2条を変更して相手方に明渡しを命じなければならないほどの事情の変更があるとは認められないとも言っています。
このような財産分与として、家に無償で住んでも良いという約束をし、それを終わらせたい場合には、家庭裁判所の調停や審判ではなく、民事訴訟として、使用貸借契約の終了事由があるかどうかを争っていくことになる、というのが今回の決定内容です。
離婚を急ぎたいという理由で、住宅ローンは負担する、家には住んでいても良いという内容で合意してしまうケースもあるのですが、その変更は、今回のようにかなり厳しく判断されることになります。
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